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最高裁判所第一小法廷 平成3年(行ツ)159号 判決 1991年12月05日

大阪市阿倍野区天王寺寺町北一丁目八番四七号二四四

上告人

谷口敏子

大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番二九号

被上告人

阿倍野税務署長 団武夫

右当事者間の大阪高等裁判所平成二年(行コ)第五九号更正処分取消等請求事件について、同裁判所が平成三年五月一七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)三条一項の規定が憲法一四条一項に違反するものでないことは、当裁判所昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決(民集三九巻二号二四七頁)の趣旨に徴して明らかである。また、その余の違憲の主張は、ひっきょう、特定の法律における具体的な税額計算の定めに関する立法政策上の適不適を争うものにすぎず、違憲の問題を生ずるものでないことは、当裁判所昭和二八年(オ)第六一六号同三〇年三月二三日大法廷判決(民集九巻三号三三六頁)、同昭和五一年(行ツ)第三〇号同五七年七月七日大法廷判決(民集三六巻七号一二三五頁)の趣旨に徴して明らかである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巌 裁判官 橋元四郎平)

(平成三年(行ツ)第一五九号 上告人 谷口敏子)

上告人の上告理由

一、二審の判決は先ず更正処分の正当性をのべているが、新措置法によればそうなるのに異議申立をしたのはそうしないと裁判所ができないからである。しかし、国税不服審判所の裁決文にもある様に同審判所も税務署も税法そのものを審議する権限はないのである。

次いで一審判決は新措置法の適用結果が同位にある所得税法が憲法二五条の趣旨を受けて定めている所得控除の制度の趣旨に反するということのみでは充分でなく、適用結果が憲法二五条一項に規定する「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利が侵害されていると認められる場合でなければ二五条一項に違反するといえないと述べたのに対して、控訴状において利子又は利子と年金等の合計所得が生活保護費より少ない場合でもその利子は二〇%の分離課税されることになっていることを訴えたが、二審判決はそれに対する見解はしめさなかった。

二、三年前よりかなり高い現利率で一、〇〇〇万円一年定期にした場合その利子は非課税で六〇万円余で成人一人の生活保護費の約半分であり、且つ、預金利率は安定したものでない。

又、二審判決はいかなる種類の所得についても控除を適用しなければならないものでないというが正当な手段による所得であればひとしく控除を適用すべきであると思う。

さらに他に総合課税対象になる所得があり且つ、その所得金額が所得控除額を超える場合はそこで所得控除の利益をうけ且つ、利子所得が高額である場合総合課税よりはるかに少ない二〇%分離課税で終わるのに対し、主な所得が利子であって且つ、低額のものは他の所得において控除をうけられない場合が多く、その利子は本来非課税である場合も二〇%分離課税され、又この税法が続く間は減税の場合もカヤの外におかれる。そして、雑損控除等臨時の控除や災害減免法の適用からものぞかれる。

しかるに、二審判決は納税者間に不公正・不平等をもたらすものでないというのは承服できない。

又、新措置法は<優>乱用防止の立法目的は達したが、それによって、<1>非納税者に負担を求める一方、高額所得者の負担が大幅に軽減され、課税の応能負担の原則に反する。<2>利子に控除が適用されないための不公平が生じた。<3>他の所得を合算されないため何千万円利子所得があってもそれに対する住民税はゼロで、勤労所得の住民税との間に大きい不公平があり、それが社会保障その他にも及ぶ。<4>支払調書が提出されないので他人名義預金も追及されにくく資産かくしやその移動もつかみにくい。

以上の如くで、その区別の態様がその目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるものといえないというのは説得力に乏しい。(添付の資料参照)

又、一審判決は一五%はそれほど大きい負担でないといっているようにとれるが、消費税が三%か五%かというものと異なり、分離制度そのものが不合理であって税率が低くとも非納税者に課税されることにかわりなく、高額所得者を更に優遇することになる。

又<老>があるというが六五才以下の利子所得生活者も居り六五才以上の高額所得者も居る。且つ九〇〇万円のうち国債の一〇年は長すぎるので既発債を購入したいとおもっても売買単位は原則百万円である。

定額貯金は一〇年預けて大きいメリットがあるものであるが、その間の利子は受け取れず超高齢者には使いにくい。又、抵当証券・大口定期等高金利のものは概ね適用外である。

又、税務執行上の利子課税の特異性をいうが、グリーンカードの際につくった設備があり活用すれば政府税調で審議した他の三方式も総合課税へのステップとしてより適切であったかもしれないのに国会審議では専ら<優>論議ばかりで当時の街頭の各野党のポスターは悉く売上税反対、<優>廃止反対で源泉分離課税のほりさげた審議は寡聞にして知らない。(偶然テレビ中継でみた村山蔵相(当時)と野党女性議員の応答も<優>に終始した。)

平成五年に必ずしも総合課税になるというものでもなく、グリーンカード突如とりやめのいきさつが政治資金かくしに都合がわるいからとかかれたものより、たしかに政治資金のために都合のよい源泉分離課税が明後年以降も納税者番号が結論に達しない等を理由として継続されないともかぎらない。又如何に利子の源泉分離課税の不公平・不合理をいってみても裁判に勝てるとは思えないので、少しでも不公平・不合理を緩和するために見直しは今後の立法府の良識にまつこととして現制度のもとで柔軟な運用をはかり利子控除分の確定申告による還付、とりわけ憲法二五条が根底にある人的控除だけでも還付する方途がないものかというのが一審以来の上告人の主張の中心的論点であるが、かかる考えは法律上は全くナンセンスなのか、一、二審とも判決はそれには何ら言及しなかった。

以上

(添付資料省略)

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